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札幌高等裁判所 昭和38年(ラ)61号 決定

抗告人 木原邦男(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙のとおりである。

一件記録によれば、原審判は被相続人木原吉助(昭和二四年四月二五日死亡)、同木原マツ(昭和二六年六月八日死亡)の左記遺産(一)(二)(三)につき、左記のように評価額を定めいずれも右両名の養子である相続人木原明、木原一男、木原三男、林ツナ子、木原邦男(抗告人)、木原ナミ、および被相続人両名の養子亡藤井マキ(昭和一八年四月八日死亡)の実子である藤井忠男、田村幸子の間において、次のとおり分割を命じたことが明らかである。

(一)  上川郡新得町新得東一線○○番の一七畑二畝二九歩(評価額二六万円)

(二)  同郎同町新得○○○番の一宅地三一四坪九二(評価額九四万円)

(三)  同郡同町新得○○○番の一宅地二九九坪九九(評価額九〇万円)

(一)(二)を木原明、木原一男、木原三男、林ツナ子の共有とし、その持分を各四分の一とする。

(三)を木原邦男、木原ナミの共有とし、その持分を邦男三分の二、ナミ三分の一とする。

木原邦男は藤井忠男、田村幸子に対し、各金一五万円を支払うこと。

ところで抗告人は相続開始後右各土地に関する固定資産税を全相続人のため立替納入し、(二)(三)の各土地につき改良のための有益費を支出したから、この点を考慮しない原審判は違法であると主張する。しかして遺産分割のための相続財産評価は分割の時を標準としてなされるべきものであるから、改良費の支出により遺産の価格が増加した場合は、増加した価額に従つて分割がなされたこととなり、右遺産を占有していた者が分割により他の相続人に占有物を返還すべき場合、回復者の選択に従いその費した金額又は増価額の償還および固定資産税等その物の保存のために費した金額その他の必要費の償還を求めることができるが、占有者がその物を使用収益(果実を取得)した場合は通常の必要費はその負担に帰し、償還を求めることはできないのである。いずれにせよ右の償還請求権は遺産分割の手続外において行使し得るのであつて、原審判がこの点を考慮しなかつたことに違法はない。

次に抗告人は相続財産の評価額が固定資産評価額に比し過大に失すると主張する。しかしながら、固定資産評価額は不動産の相当価格と一致しないのがむしろ一般の事例であるから、不動産の分割に際してはその価格は鑑定等により評価すべきであり、本件記録によれば原裁判所は昭和三八年八月二六日鑑定人高橋秀利を選任して相続財産の評価を嘱託し、右鑑定人は当時における右不動産の価格をいずれも坪当り三、〇〇〇円と評価し、同年九月四日付の評価調書を提出し原裁判所はこれに基づいて評価額を算定したことが認められ、右評価が不当に過大であると認むべき資料は全く存在しない。従つて右評価額をもつて分割時における相続財産の価額としてなした原審判に違法はない。

その他記録を精査するも原審判に違法不当はなく、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 和田邦康 裁判官 田中恒朗 裁判官 藤原康志)

(抗告理由省略)

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